第17話 「どうして売られた?」●*

今回は、領主様が、令嬢リザヴェタとの結婚式も三日にわたる初夜も無事に済ませ、四日目の朝から愛人のアクリナのところに行く話です。
少々ダークです。
●最後までの性描写があります。*後半の回想シーンに残酷な描写があります。

10月21日,1827年

三日三晩、リザヴェタと領主館に籠った。
四日目の朝、夜が明けるのは遅い。私はその前に館を出た。私はリザヴェタの寝台脇の卓に『出かけてくる』とだけ書いた紙切れを残した。

家令のテレージンに、寝室だけ残して、あとは片付けておくように伝える。
厩舎に行き、馬を引き出す。手綱によく応える灰色の馬だ。
久しぶりの外の空気は冷たく、新鮮であった。

領主館から領地の奥に向かうに連れ、道は三又に別れる。一本は農場と付属設備に、一本は農奴たちの住居に繋がる。
私は一番西の細い道に馬を進ませた。道は森に入る。小川が道を横切り、橋が架かっている。丸太が腐っていた。
馬で軽々飛び越えられる幅だが、これから雪が降るし、水量が増えたらまずいだろう。修理させねばな、と思う。
だんだん日が昇ってきた。八時半ごろだろうか。私は馬をゆっくり歩かせた。太い松の合間に白樺が生える森だ。白樺はすっかり葉を落としている。二露里ほど行った後、小屋にたどり着いた。

すでに小屋の前に他の馬がいた。ヒローシャが、飼葉を食わせていた。
「おはようございます。大切な領主様」
「おはよう、何か問題はなかったか?」
「特にありません。夜、何か獣が近づいたり、不埒な輩がうろついていることもありませんでした」
「そうか、良かった」私は馬を降り、小さな厩舎に入れた。
「私は下がってよろしいでしょうか」
「ああ、今晩も頼む」

「あの、恐れながら、領主様。今晩は承ります。明日の晩も……ですが、私はずっと、こちらに夜、詰めているのは辛いのです。できれば他の方を」
「何故だね?」
「私はリザヴェタ様にお仕えしたくて貴男様の領地にうかがいました。アクリナさん……いえ、アクリナ様は良い方ですが……」
「ああ、」
「ここにいるのは、……あの、リザヴェタ様に申し訳ないのです。代わりの方を探していただけないでしょうか」
「なるほどね……」
私は一瞬考える。
「わかった。探す。君が一番信用できるから、君に頼みたかったのだがね。今夜は、私が母屋の厩舎に着いたらまたこちらに来てくれ」
「はい、申し訳ございません」

女の声がした。
「ヒローシャ、クワスを置いておきます。朝ごはんは食べる?」
アクリナが出てきた。クワスのピッチャーを抱えている。アクリナはひどく驚いて私を見ていた。
「じゃあ、ヒローシャ、今夜は頼む」
「は、はい。これだけ飼葉を食べさせたら……すぐに出て行きますから」
「別に焦らなくて良い」
アクリナがヒローシャにクワスを渡している。「ありがとう」
「いえ、こちらこそアクリナ様」
「『様』はやめてください。貴男のほうが身分は上なのです」
ヒローシャは私に雇われている異族民で、自由民だ。

厩舎の横に、アクリナの小屋がある。なかなか立派なものだ。ヒローシャが立ち去ったのを見て、私はクワスのピッチャーを取って小屋に入る
アクリナが慌てて私の後をついてくる。
「こんな立派なお家を……ありがとうございます」
私は錠を降ろした。
「あ、申し訳ありません」
アクリナが慌ててピッチャーを受け取る。
「グラスをくれないか? おまえの作ったクワスが飲みたい」
「はい、領主様」

階下には玄関の間があり、奥には小間使いが来たら住み込む小部屋がある。台所や、薬棚があるのもここだ。
玄関の間の横の、分厚い扉を開けると階段だ。二階に行くと、アクリナの部屋になっていた。二間ある。
手前は普段彼女が暮らす部屋である。鸚鵡の籠やイコンを飾った聖なる祭壇があり、窓からは東南の日がよく入る。
その奥は寝室だった。
アクリナ一人には広すぎる寝台だ。

私は奥の部屋の長椅子に座り、クワスを飲む。
「おまえがここに移ってから、来るのは初めてだな」
「はい……。あの、よろしいのですか、こんな時間に……お仕事は……?」
「今日まで休みにさせてもらったよ」
私は乗馬服で、アクリナはいつもリャードフ家で着ていたサラファンとルバーハに、ショールを巻いただけの姿だ。
「アクリナ、……せっかくあれだけ服を贈ったのだから着てくれ。私の楽しみなのだ」
「はい。ですが、今日貴男様がいらっしゃるなんて思ってもみませんでした」
「おかしいかね」
「だって、皆さん噂なさってました……あの、三日三晩……こちらの人たちの言葉が聞き取れないことがあるので、聞き違いかもしれませんが」
「聞き違いではない」
私は上衣を脱いで、長椅子の手すりを枕に横たわる。
「疲れたよ、アクリーヌシュカ。こちらに来てくれないか」
「あ……はい」
私はアクリナの手を取り、ぐっと引っ張った。痩せた体が私の上に倒れてくる。私は両腕でアクリナを抱きとめた。
アクリナの体はぎこちなく、固い。

リャードフ家で忍んで来させた晩は、アクリナを買い取る前日だった。私は声が漏れないようにアクリナの口をふさぎ、血が出るまで乱暴に犯した。
それ以来、何度か会う機会はあったが、アクリナは私に怯え続けている。
どうすれば、彼女をくつろがせることができるのかわからない。
もう無理で、私は、女農奴に手をつける領主として、ただ好き勝手に振る舞えば良いのかもしれないが……。

私は昨年、ほんとうに気楽に彼女をからかった。
リャードフ家では、私のほうが身分が上といっても、アクリナは他家の使用人である。私は彼女に対して何の責任もない。彼女にとって私は、ようするに単なる妙な客である。私に仕事の指図をされたり一日の行動を決められることはない。平気で言い返すこともした。
あの時は金を手に入れ、領地を取り返せば何もかも解決すると思っていた。アクリナに対しても、フョードルから買い取って領地に連れ帰って囲うことしか考えていなかった。

もちろん、金は大事だ。すさまじく大事だ。あのままでいるわけにはいかなかった。
しかし彼女を買ったことによって、彼女は私の言うままに働き、住まい、行動しなければならなくなった。剥き出しの支配・被支配関係が寒々と現れた。いくら愛しているだの何だのと言ってみても、本質的にはそういう関係なのだ。

「……私が怖いのかね?」
「はい……」
「そうか、それなら仕方がないか……」
「あ、……あの、領主様……エヴゲーニイ・パヴロヴィチ。あの……あの、怖いけれど……好きです……来てくださって嬉しゅうございます」
「ありがとう、アクリーヌシュカ……」
なんという白々しい会話だろう。アクリナが言っているのは嘘ではないだろう。だが本当に口に出したいのかというと、そうではないだろう。

「結婚式をしたよ」
「はい……」
「面倒だった。どうも私は親戚に嫌われているな」
「……そんな。あの、……あの……ほんとうに三日三晩お続けになったのですか?」
「違う。休みながらだ。だいたい配分は考えておくさ」
「……配分って」
「私の体力だ。今日訪ねてくるための体力は残してある」
「あの……それでは」
「水風呂にも入って来た」
私はアクリナをますます強く抱いた。
「ここは怖くないか?」
「素敵ですけれど、ちょっと……ヒローシャがいてくれたので心強かったのですが」
「……毎晩俺が泊まり込みたいよ。猟銃を持って……」
「……何をおっしゃってるんですの……ただ、夜は少し怖いです。風の強い晩がございましたでしょう。……森は木が鳴って、恐ろしゅうございました」
「ああ、そうか。掛け絨毯を巻けば少しはましになるな。ここは簡単には壊れないが……これから雪も降るし、吹雪も来る。犬を飼うか?」
「犬はあまり好きではないのです。昔の領主様が……大きな犬を飼っていて、あたしたちが逃げないように夜になると走り回らせていましたから」

「おまえはアルハンゲリスク県だったね」
「白海のそばでした。スモレンスクよりずっと寒い……港から、大昔にシベリヤのずっと東まで移住した村の人たちがいたそうですわ」
「北西部か。辛そうだな」
「ええ、変な話ですが……あまり覚えていないのです。二十歳ちかくまでいたはずなのですが」
「辛いことが多いと忘れようとすると聞く。許婚殿のことも忘れたのか」
「それはなんとか覚えています」
「色男が」
「いえ、全然そんな方では……無口で、無骨な。それに亡くなった方ですし」
「おまえの初物をいただいたというだけで十分報われただろう」
「そんな酷いことをおっしゃらないでください……多分この近くで亡くなったのです」
「祖国戦争か。すまない。ただ、二十歳のおまえを見てみたかったのだ。私は十五か……できるな」
「できるな……って。十五の貴男様に……無理矢理、でございますか……そんなの嫌でございます」
「酷いな」
「だって、面白半分にどんな酷いことをされるか……わかりませんもの!」
「十五なら礼節は心得ていましたよ」
「でも去年の時点でああではありませんか……」
「ああ、……まあ、酷いね」
私はアクリナの肩に腕を回す。そっと接吻する。

「どうして売られた?」
「え……?」
「アルハンゲリスクからシベリヤに売られてフョードル殿に買われたのだろう?」
「そのまえに十年近くシベリヤの女子修道会で賄いをしておりました。修道会が立ち行かなくなって、フョードル様に買われたのです」
「ああ、それで男をほとんど知らないのか……」
それだけではない。アクリナは、農奴の娘のわりには、知恵もあったし、品もあった。確かにぼうっとしていることは多いが、それはもともとの性格だろう。
不思議に思っていた。
農奴が持つ、あの鈍い感じ……がないのだ。感情も人格も未発達のまますっかり磨滅してしまい、動物に近く見える、あのような状態ではまったくない。
女子修道会とリャードフ家のおかげなのだろうか。

「女子修道会なのに、賄いがいるのか?」
「あの、普通の修道女もおりますが……
何か問題を起こした令嬢が送られてくるのです……」
「なるほどね」
もしや、私が堕落させた令嬢の誰かがいたのではないか。

急にアクリナが訊いた。「重くありませんの?」
「え?」
確かに私の上にはアクリナが乗っている。「いや、そうだね、多少重いけれど気持ちが良い。おまえの恥骨が私の下腹を押している」
「ああ、貴男様は……」

アクリナは驚くべきことに、自分でサラファンの釦を外している。ルバーハまで脱ぎ捨てる。下に着ているのは、黒い下着で……私が贈ったシュミーズとドロワーズを黒く染めたものだった。
「ああ、染めたのか。なんて似合うのだね……」
私はシュミーズの上からアクリナの胸を撫でる。横腹や肋骨から、背筋、腰のくぼみ、尻へと手を動かす。

「で……最初の領地からはどうして売られた? おまえが自分でそこまで脱いで、私の気をそらそうとするとはね。それとも単なる偶然か」
アクリナは赤くなる。
「あ、あの。別に話をそらそうなどとは……」
「良いんだ。おまえが嘘をついても、私には何故かわかるのだから。いくらでも嘘をつきなさい」
私は木綿の薄いシュミーズを下げ、左の乳房を転げ出させた。黒い下着に映える白い皮膚、柔らかな乳房と、石榴色の乳暈が美しかった。
「ああ、きれいだ……。すべて脱がせて、森の松の木に縛りつけたい。白樺の横の松だ。私は猟銃を持って……誰もこないように見張って、虫がとまったら取って……時々おまえの足に接吻する。髪もほどいて」
私は三つ編みを編んだアクリナの髪をほどいた。藁色の柔らかな髪が広がる。
「髪は風になびくだろうね」
「え……な、なんてことをお考えなのです……」
「ここでできなくはないね」
「誰かが通りかかります」
「この森中を侵入禁止にする。入り込んでくる者がいたら撃ち殺すさ……それでもおまえに手を出そうという不埒者はいるのか? おまえが私のものだというのはもう、テレージンも、ヒローシャですら知っている」
「も、もういやです……ヒローシャの顔がまともに見られませんでした。は、恥ずかしくて。どんなに軽蔑されたか……」
「いや、おまえには何の責任もない。私が無理矢理自分のものにしたと伝えてあるから」
「え……ああ、テレージン様にもですか」
「ああ」
「……あ、あたしが、貴男様に無理矢理……それなのに、どれほど……喜んだのか……皆知っているのですね」
「いや、喜んだかどうかなど誰も知らぬ。
皆が知っているのは、おまえが、買われたら持ち主の言うとおりに動かなければならない立場だということだ。
喜んでいなくても。虫唾が走るほど私を嫌いでもだ。おまえが私を怖がっていようと……」
(もし、アクリナを解放したら、という考えが浮かんだ。農奴一人を自由民にする程度なら、若干の損害をこうむるだけで、できないことではない。
だが、逃げたら? 他の男と逃げようと私が止める権利はまったくないのだ!)

「いえ……怖くなど……」
そう言ったきり、アクリナは黙りこんだ。
ただ涙が流れ始める。
私はアクリナの潤んだ目に口づけし、涙を吸う。
「どうすればいいのか私にはわからない。せめて、おまえの体を喜ばせるようにする」
「……はい。ありがとうございます……」
ドロワーズの紐を緩め、中に手を滑り込ませた。冷たい尻に手を滑らせる。
私は手を滑らせ続ける。硬くすぼまった乳房の先端、臍のくぼみ……。私は思わず本音を漏らす。「おまえの体が一番好きだ……」
「そんなこと……おっしゃっては駄目です……」
アクリナは、どうも、他に人のいない際の会話も痴態も誰かが見ているように感じているらしい。だがいったい誰が? 神か、聖ニコラか、自分の良心か?
私は右手をアクリナのドロワーズの中で前に回す。藁色の柔らかな体毛をかき分ける。
アクリナは大きな溜息をつく。

昨日まで散々いじった体とはまったく違う。陰核は『彼女』より小ぶりだが、そのぶん快感を感じる箇所の密度が濃いように思える。
襞は薄く、裂け目は深い。そして白い肌から裂け目に落ちて、急に濃い石榴色に変化する美しさ。石榴の実の色なのだ。
私はアクリナの裂け目のさらに奥の洞窟に右手の人差し指をゆっくり滑り込ませる。
「……あの……こ、こんな」
「口づけするから、顔を下ろしなさい」
「は、はい」
私は左手で後頭部を押し、アクリナの意外に厚みのある唇を私の唇にしっかりとあてがう。アクリナの舌が、こわごわと私の口の中を動き、舌を押しつける。何か、とにかく触れたくて仕方がないというように。

「あ……」私の右手の指はアクリナの洞穴の畝をたどっている。左手は今度はまた、生牡蠣の貝柱のような、立ち上がりきった乳頭を転がす。
「キリーナ、中はどうだ……」
「は、はい……わか、りません……あ……あの、外側にある、貴男様の指のほうが……あの」
「ふん、なるほど……でも指は入れる。私のものを入れても痛くないように、慣れてもらう」
アクリナの上半身をさらにそらさせ、私は頭を起こし、乳首を噛む。「ああ、……いやです……」
「ほんとうに? 嘘をついても、私にはわかると言っただろう」
「どうしておわかりになるのです……?」
泣きそうになっている。表情に露骨に出るのと、さっとイコンを見るからなのだが。
私はアクリナの中に入れた指を動かした。「あ、あ……」気持ちが良さそうな声を出すではないか。

「キリーナ、下着を脱いで、もう一度、私の上に乗りなさい」
「はい……」
こういった類いの言葉は、私の『望み』でも『お願い』でもなく、すべて『命令』だとアクリナにもわかっていた。
私は彼女に入れていた指を抜く。ふやけかけた指にたっぷり粘り着いた透明な液を舐めた。
「そんなことなさっては駄目です」
「いや、舐めたいのだ。それより、下着を」
「……はい」
アクリナは私の上から降りる。真新しい、墨のように黒い絨毯の上に立ち(内装はほとんどアクリナの好きにさせたが、この絨毯は私の望みだった)、慣れない下着に、怖そうに手をかける。袖のないシュミーズをもちあげ、藁色の髪に覆われた頭を通す。

寝室の奥にあるごく小さな窓から、秋の陽光が入り、アクリナを照らす。
藁色の髪が輝いていた。アクリナの姿は周囲だけが輝く影法師になり、おそらく泣いているであろう表情もわからない。
ドロワーズを下ろし、もう一脚の椅子に置いた。私は眺め続ける。下腹部を覆う薄い繁みが、わずかに開いた脚の間で光っている。滴る液の粒も輝いていた。
アクリナは光の中から出てきて、私の横に立つ。
「脱ぎましたわ」乳房を腕で覆っている。泣きだしそうだ。
私は半身を起こし、アクリナの手を引いてくずおれさせた。アクリナは再び私の上に、今度は仰向けに倒れる。

ああ、何度見てもそのたびに違う美しさがあるのだ。横たわった体は、細いが力強かった。私は薄い腹の筋肉を覆う、白い皮膚のわずかな凹凸に見とれた。
「……これがほんとうに私のものなのか」
「はい……あたしの何もかもが貴男様のものです」
「いや、おまえの考えることまでは私には手に入れられない。過去も」
「……話すようにご命令なされば良いのですわ。……どんなにあたしが恥ずかしくて醜いことを考えているか話せと。
あ、あたしが、昨日も一昨日もその前の日も、貴男様が痛がるあの方をなぶっておられるか考え続けたか……大恩のある方なのに、いっそいなくなってしまえば良いと」
「私が怖いのに『やきもち』は焼くのか……」
「そうです。あ、あたしは……ひどいです。邪よこしまです。……貴男様にずっとここにいていただきたいと……独り占めしたいと……もっとあたしを、滅茶苦茶に辱めて欲しいと思っています、ええ、ほんとうに松の木に縛りつけてください!
罰を与えて……」
アクリナは私にしがみついて泣きだす。
「アクリナ、罰って……別に罰を与えるようなことなどないぞ」
私は戸惑う。被虐趣味なのか、信仰深いが故に罪悪感も深いのだろうか。

「マウリャみたいに鞭打ってください」
「マウリャ? ……ああ、赤毛のマリーナか……」
私が、シベリヤのリャードフ家で罰を与えた無礼な小間使いだ。
「おまえに罰って、罪状は?」
私は二人の女のどちらも恐慌状態に突き落としている。リザヴェタはまだ良い。私と同じ階級で予測がつく。私が御すことができるし、本人も勝手に立ち上がる。
だがアクリナはどうだろう。
「罪は、貴男様を怖がったことです」
「あれは、私がやり過ぎた。あんな乱暴に抱かれたら怖がるのはあたりまえだ」
「駄目です。……あたしが……松の木に縛ってください……裸で馬に乗せて晒し者に……」
「あ、アクリナ。聞いてくれ、おまえは私のものだ。……だから、おまえの罪の意識も、醜い考えも、みんな私のものだ。だいたい、ひどいことなら私のほうがはるかにしている(人殺しさえ)……おまえがいた女子修道会の令嬢の中には、私が堕落させた人がいるかもしれない」
「貴男様は何をなさっても良いのです。領主なのですから」
この女は過去に何かあったのだろうか。農奴の娘が辛い目にあっていないわけがない。
とはいえ、この異様な罪の意識は何なのだ?

「罰は考えておく」
こういえば安心するだろうか?
「はい、領主様」
「とりあえず……私のものを咥えろ」
「はい、領主様」
あんなに怖がっていたのに? 私は股間の釦を外す。アクリナが、素裸で私の上にかがみこみ、しぼんでしまった男根を咥える。
アクリナは結構上手く舐めた。
しかし、私は何かもの悲しかった。以前一度咥えてくれた時は、とにかく必死で、恐る恐る手にとってくれたのが良かったのだが……。確かにいいところを舐めてくれるのだが。

「アクリナ」
「は、はい」
顔を持ち上げる。「体を反対向きにしなさい。舐め続けて。そして、おまえの裂け目を私の顔の上に」
「え……い、いやです。そんな姿は……」
いつものアクリナだ……。「罰だよ」
私は立ち上がり、長椅子の上で膝をつき、つい先ほどまで私のものを握っていたアクリナの体の向きを変える。私は元のように横たわった。
アクリナの下半身が私の頭の上に来る。閉じようとする脚を無理に開かせ、舌を伸ばし、彼女の、開ききって震える、石榴色の実やとりかこむ襞や、さらに奥に繋がる切れ目を舐め続けた。
私の目の前にあるのは白い尻の切れ込みの間にある蕾の形をした門だ。

「領主様……こんなかっこうは、ひ、ひどすぎます」
すすり泣きの声が聞こえる。
「罰だ。三日三晩、私とあの人が何をしているか想像していたね。実際よりはるかに淫らに……心配するな、おまえにはもっと淫らなことをさせるから」
私は陰唇から、陰核、膣口まで舐める。
ああ、びしゃびしゃだ。後ろの門に舌をつけると、アクリナは悲鳴をあげた。
快楽と羞恥と嫌悪がないまぜになった悲鳴だった。
「い……いやです。領主様、汚いです……そんなところ、ああ、見ないでください……」
「罰だと言ったろう。おまえももっとしっかり咥えなさい」
「は、……はい」
石榴色の陰核は膨らみ、私の頭上から転がり落ちてきそうだ。そして、私が支える腰の中で、震えている。アクリナは嫌がりながら、いっそう脚を広げた。
「おまえは自分でますます脚を開いている。ほんとうにあられもない……」
「は……はい……」
私はまた、後ろの門に舌をつけ、白い尻を赤くなるまで掴んだ。悲鳴があがる。
「ここは森の中だし、音もなるべく漏れないようにしてある。遠慮なく声をあげなさい」
ここを鞭で打てば喜ぶ……いや、喜ぶというより、罰を受けたと満足するのだろうか?
他の女を妻にした私のせいなのに。

「アクルカ、他に何を考えた? 浅ましいことをたくさん考えたのだろう?」
「貴男様に……或る木の根を煎じてお飲ませしたいと考えました……」
「それはどんな作用がある?」
アクリナは私のものを咥えながら泣いている。
「あ……貴男様の、これ……が役に立たなくなる……」
「え?」
「牛や馬を去勢するみたいに……殿方の力をなくす毒です」
「……それはほんとうにひどい。腐り落ちるのか」
「いいえ、でも、二度と使えなくなるそうです」
「……独り占めできないなら壊してしまおうということかね」
「申し訳ありません……そんなことばかり考えていたのです……」
「もういい」
私の上に乗っていたアクリナをいったんおろした。今度は抱きあげ、寝台の上に乱暴に落とす。

「これがなくなったら、か。私の家系を絶やす気かね」
アクリナはやっと気づいたらしい。その木の根を飲ませた結果が、単に私から快楽の道具を取り上げるだけでは済まず、他にも影響を引き起こすことに、だ。
「ああ……」
寝台の上で体を折り、泣いている。
私はその姿を見下ろしながら、服を脱ぐ。英国製の麻の白いシャツがぐしゃぐしゃになってしまった!

この女の中に子種を撒くわけにはいかない。羊の腎臓の皮を嵌め、泣き続けるアクリナの細い腹を掴んだ。
私は寝台の横に立ったままだ。
寝台の上のアクリナをひざまずかせ、尻を高く掲げさせた。
尻というのは男でも女でも少し滑稽に思える。乳房がひたすら官能的で美しいのとは違う。乳房にとっての乳首のようなアクセントがないからだろうか。
のっぺりとした尻の片方の膨らみには私が握った手の跡が赤く残っていた。
アクリナの尻を……いや、アクリナ以外の誰でも……これほどしげしげと見たのは初めてではなかろうか。
石膏の彫刻に見えた。太腿が柱の神殿のようだ。柱の奥に、石榴色に彩色された天井が覗く。

私は、薬を盛られず無事だった男根をアクリナの膣の奥底に挿し込む。
「痛い、……も、申し訳ありません」
「他には何を考えた?」
「もう、……思いだせません……」
私はアクリナの上半身を抱きあげ、乳房を揉み、繁みを指で割る。
「申し訳ございません……貴男様の尊い古い血筋を絶やしてしまったら……あたしなんかが何度死んでも償えません」
「魔女だと言われるのは、じっさいに誰かに何か使ったのか?」
「ち、違います!」
反応が強烈だ。このあたりに何らかの嫌な思い出というか、『傷』があるのかと思う。

アクリナは言う。「愚かなあたしに罰を与えてください……領主様」
「おまえは、前の領主に何かされたのか」
「いいえ、いいえ!」
「私が誰だかわかっているのだろうね」
私はアクリナに入れたまま、寝台の上に倒れこむ。
「スモレンスクのエヴゲーニイ・パヴロヴィチ・Я様です。あたしの、持ち主の……あたしを自由に犯していい方です」
それは事実だ。だが、言葉に出されると強烈であった。とりわけ、腰を動かし続けている時に。
しかしアクリナも、……少なくとも以前は……私を慕ってくれていたではないか。

アクリナの顔は涙でいっぱいだ。
「アクリナ、罰など与えない。考えてしまうのは仕方がない……私がそのような状態に追い込んだのだから。それに、考えるのとじっさいにやるのではまったく違う」
理を説いてたところで、どうなるのだろう。 
それでもアクリナの体は気持ちが良かった。よく締まり、私を締めつけた。私はお気に入りの乳房を揉む。触れもしないのに乳頭が尖っている。
「きれいだ……」
私の感嘆の声に、アクリナはわずかに赤くなる。
「あたしの領主様……領主様に囲われるのは名誉なことです。ほんとうに嬉しいのです。
あの……貴男様に貫かれて、繁みをかき分け果実を撫でられ、ああ……なんて幸せなのか。
いつぞやマウリャが貴男様のお部屋に忍び込んで、すげなく拒否されておりましたね……あたしは……あの時、嬉しかったのです……農奴の娘たちはみんな貴男様に抱かれたがっています……でも囲っていただけるのはあたしだけ」
アクリナの調子が微妙におかしい。私に抱かれる喜びを夢見るように語り続ける。

そして、淫蕩に私のものを受け入れながら、さらに脚を開き、体を開く。自分で、私の前で! 自らの陰核をこすり続ける。
もう、口もまともにきけないようだ。はあはあ息をしながら、アクリナの果実が、痙攣し、内股にますます力が入った。尻をピクピク持ち上げる。
「ああ、あああ、領主様……」
アクリナが陰核の恍惚に達したらしい。婦人はうまくいけば、何度も達することができる。
アクリナは気持ちよさそうに脚を大きく広げ、恥丘を震わせながら、乳首をひねっている。いつものアクリナからは到底考えられない姿だ。私は一瞬、怪奇小説じみた考えにとらわれる。アクリナはそっくりの双子にいつのまにか入れ替わったのではないか。
アクリナの恍惚は私をも、さらに締めつけた。
「アクリナ、ああ、……私の」
私の下半身は痺れ、切ないような感覚に襲われる。私は大きな溜息をつきながら、恍惚に達した。
アクリナはまだ体をうごめかし、私にこすりつけてくる。
耳元で囁く。
「エヴゲーニイ・パヴロヴィチ、あたしが悪いことをしたら……罰を与えてください」
「……わかった」

—-

部屋は私の精液の匂いがする。アクリナが放心しているところに、……私も放心しているのだが、私たちは裸のまま寝台にいる。私はアクリナの髪をいじっていた。
「それで……、どうして売られたかの話は? それほど言いたくないのかね」
アクリナは横たわったまま、気怠そうに答えた。
「……きっとご不快になられます」
「おまえが遭った難儀だろう? 何でも聞く」
「流行り病いです……」とアクリナが言った。

「はい。流行り病いが出て……あの、」
アクリナは筋道立てて話をすることができない。私が補いながら訊かねばならない。おそらく子供のころまともな会話をしていなかったのだろうから仕方がない。
「農奴は何人くらいいた?」
「五十人? 七十人くらいでしょうか……。貴男様の領地に比べるとほんとうに貧しい……ええ、作っているのは、ライ麦でした」
「おまえの家族は母親だけなのか」
「はい……」
「父親はまったくわからないのかね」
「はい」
おそらく、領主か、農奴の誰かなのだろう。
「流行り病いはどんな種類のものだった?」
「何でしょう……黒死病に似ているなどという者もいましたけれど……よくわかりません。高熱が出て、震えがきて、お腹を下して……数日で亡くなるのです」
「ふむ、おまえは罹からなかったのだね」
「はい、あたしも母も……だから、余計に。
魔女が流行り病いを起こしたという者が出て……母さんは、村の農奴たちに木の(くわ)や棒で打たれて」
アクリナが泣きだす。
「怖かったです。ほんとうに怖かった。母は逃げろと言い、……誰かが娘も捕まえろと叫んで……、魔女かどうか調べろと。
振り切って逃げましたけど、サラファンの背を掴まれた感触が今でも残っています」

「領主様が猟銃を持ってきて母を撃ちました。『魔女は死んだから、流行り病いは治まる』とお叫びになりました」
残酷だが、適切な対応ではある。集団が狂気に囚われているところに冷静かつ派手に『原因』だと思われているもの……を取り除けば、農奴たちも静まる。
おそらく何の罪もないアクリナの母を犠牲にするのは罪なことではあろうが、農奴一人一人が財産なのだから、減らす数は最少でなければならない。

「村の人たちは、憑き物が落ちたようになって……。領主様はそのあとすぐに、あたしを檻に閉じ込め、シベリヤ行きの船で来た、仲介人に売ったのです」
これはもう、泣き尽くしたのだろう。淡々と、涙も見せずに語った。
「……ふむ」
「でも良かったのです。母はやっと死ねましたし……、あたしは貴男様にお会いできましたから」
確かに、そこの農奴でいても、つまはじきにされながら、次の流行り病い騒ぎで殺されるか、無理矢理、誰かの……あるいは複数の男たちの……情婦にされるくらいしかないだろう。
「せっかくリャードフ家で平和に暮らせていたのに、すまないな」

「領主様……貴男様ならばその場でどうなさいますか」
「多分、同じことを……だが、私刑にあっているのがおまえだったら……強権発動だな……」
「どういうことでございます?」
「おまえを殴っている農奴を二、三人撃ち殺して……怯んだ残りは領主裁判をする。
人数が多ければ、私の信用する者にも攻撃させる。いま、ここで猟銃を持っているのは、裏切らないだろうと思える者だけだから」
「ああ……」
「おまえのためならば私はそれくらいはやる。安心して暮らしなさい」
「はい……」
「怖いことがあったら、全部私に……あるいは、猟銃を支給されている者に」
昨年の私なら、抱きしめて可哀相に、と繰り返すしかできなかった。
それを思えば多少アクリナに怖がられていようと構わないのではないか?

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目が醒めると暗い。四時半ごろには日が暮れるのだ。
アクリナが隣で眠っている。
あれからもう一度交わった。私は懐中時計を見る。……十時だった。
「すまない、アクリナ、十時過ぎている。もう戻る」
「え、十時? 夜のでございますか」
私は起き上がり、服を着る。なかなか面倒である。アクリナはあっという間にルバーハとサラファンを身につけていた。私は外套を羽織り、帽子をかぶりながら訊く。
「薪も食料も足りているね」
「はい」
鸚鵡が鳴いた。「商人様、商人様」
「懐かしい呼び名だな」アクリナは恥ずかしそうにした。
「私が母屋に着いたら、ヒローシャがこちらに向かうから」
「はい」アクリナがおずおずと両腕を伸ばし、私の首に腕を巻きつけた。自分から口づけしてくる。
「ちゃんと戸締りしなさい。ヒローシャはわざわざ出迎えなくていい」
「はい、エヴゲーニイ・パヴロヴィチ」
私は厩舎から馬を引き出した。「またすぐ来る」

館の厩舎で、半分眠っていたヒローシャを起こし、アクリナのところに向かわせる。

母屋に帰ると、明かりはほとんど消えていた。鍵を出して、玄関を開ける。
……主が戻ってきたのに、誰も出てこない。確かに朝早く、その分、夜も早い生活だが……。
ガランとした玄関間で外套を脱ぎ、階段を登り、大きなペチカのある居間を通る。
主寝室を開けると、寝台に人のいる気配はある。
「リーザ、ただいま。帰ったよ」
リザヴェタは壁側を向いて眠っている。こちらを振り向きもしない。ほんとうに寝ているのかわからない。

私は居間に戻る。朝食の後、何も食べていない。
台所には明かりがついていた。中年の太った料理女が一人で後片づけをしていた。
「君、何か食べるものはないか?」
太った料理女が振り向いた。四十歳くらいだろうか。
「坊っちゃま、まあ」
「え?」
「ああ、お分かりになりませんよね。オクサーナです。いつも貴男様が料理に悪戯していた……」
「ああ、オクサーナ。ほんとうに君かい」
ウクライナ系の名前だったので覚えている。ほっそりした、頬の赤い新妻だったのだが……。
「ええそうです。いつもルーシのエウゲニオス獰猛公に、作りかけの料理を台無しにされておりました。シチーに輪切りにされた鼠だの生きたトカゲだのを入れられて、泣いてばかりいましたわ」
「二年前にはいなかったじゃないか」
「人を増やすと言うので、テレージン様に声をかけていただいたのです」
「そうか。会えて嬉しいよ。何か食べものはないかね」
「少し時間がかかりますがブリン【*ロシア風のクレープ】をお焼きいたしますわ。もう料理に悪戯なさらないでくださいますね」
「しないよ……私がいくつになったと思っているのかね」

オクサーナは小麦粉と水を手早く混ぜている。女がこういうふうに、熟練した仕事をなめらかにこなす姿が私は好きだった。私は配膳台に肘をつき、ぼんやりとオクサーナを眺めていた。
「坊っちゃま、旦那様、エヴゲーニイ・パヴロヴィチ、変わってらっしゃいませんのね」
「そうか?」
「よくそこであたしどもが仕事をするのを見てらした」
「ああ、おまえたちが仕事をする姿は美しいからね」
「相変わらず面白い旦那様ですこと。奥様といっしょに、もうひとり女の方を連れてらしたそうですね」
「噂になっているかね」
「それはもう。あたしは、変わってらっしゃらないと思いましたわ。獰猛公のままなのですね」
「あれは前は料理女だったんだ」
「まあ! では坊っちゃま、ぜったいにお泣かせしては駄目ですわ」
「あ、ああ、うん……そうだな」
オクサーナはブリンを皿に乗せ、コケモモのジャムもつけてくれた。


アイキャッチ画像
“Spring2”
Painted by
Alexei Savrasov (1830–1897) [PublicDomain]