第25話 ルサールカ-水の精●*

領主様は、リザヴェタ奥様の妊娠を領主館の人たちに発表したようです。でも疲れて逃げだします。
湖で釣りをしながら、愛人のアクリナといちゃいちゃしているだけの話です。
●最後までの性描写があります。
*少し残酷な描写が入ります。

1月20日,1828年

私は釣りをしていた。
領地の南の境に小さな湖がある。湖は凍りついており、時々、スケートで遊ぶ子供が見えた。釣りをしているのは私だけだ。
私は氷上に穴を開け、中に釣り糸を垂らしていた。
一昨日、つまり一月十八日はリザヴェタ・フョードロヴナとの結婚三ヶ月目で、……恐らくそのころ妊娠したというので、リザヴェタの妊娠三ヶ月が家人たちの前で発表された。
『おめでとうございます』の言葉に私は疲れ切っていた。
だから、屋敷を抜け出し、釣りに来ている。

「領主様、これはどういう意味ですの」
丸太を輪切りにしただけの椅子をふたつ、氷上に並べていた。
ひとつには私が座り、もうひとつにはアクリナが座っている。
アクリナは外套を着込み、兎のようにウシャンカをかぶり、本を読んでいる。
私のアクリナはもうすっかり本が読めるのだ!
読んでいる本は『キノコのそだてかた』である。
「どれだね? キリーナ」
アクリナは本を広げ、『高温多湿』という言葉を指さす。
「ああ、これはね。……暑くて、湿気が高いという意味だ。『湿気が高い』のは、雨が降る前に妙にべたべたする日があるだろう?
そういう状態のことだね」
「わかりましたわ。これは外国での育て方ですね。だいぶんロシヤとは違いますのね……」
「でもそういう状態を作ることはできるよ。たとえば温室や、ペチカのそばや……何か工夫すれば。
ああ、でもおまえのペチカの上に馬糞を置いてキノコの菌床につかうのはやめておくれ」
「え……どうしてですの」
「馬糞の匂いが辛い。衛生上も問題がある」
「ああ、それならば、詰め所のほうにもペチカの熱が当たりますわ。あちらに置けばよろしいのかしら」
「まあ、それならば良いか……せっかくおまえが育てたがっているのだからね」

良い天気だった。私の服装もウシャンカに毛皮外套だ。私はだんだん洒落者ではなくなっている気がする。
アクリナの背が私の背にもたれているのが心地よい。釣り竿の浮きは、ぴくりともしない。
「何もかからないな」
水の精(ヴォジャノイ)に煙草かお魚を供えないからですわ」
【*スラヴ民族の水の精。ロシアではヴォジャノイと呼ばれた。魚の支配者。またヴォジャノイは男性の姿だが、女性の姿の水の精『ルサールカ』もいる】

「ヴォジャノイを信じているのかい?  アクリーヌ、敬虔な正教徒なのに。見たことはあるかね?
ヴォジャノイじゃなくても良いよ。家霊(ドモヴォイ)でも森の主(レーシイ)でも、吸血鬼(ウプイリ)でも……」
「な、ないですわ。恐ろしい」
「私は女の水の精(ルサールカ)ならあるがね。……」

「ええ? 本当ですの?」
アクリナは興味しんしんで私の顔をのぞき込む。
「魔女のアクリナを水に入れればルサールカだな」
アクリナは黙り込んでしまう。唇を震わせ、泣きだしそうだ。
私は驚いてアクリナの腰に手を回す。
「どうした? 魔女のアクリナといったのが悪かったか?」
「……いいえ、それは冗談だとわかってますわ。でも、ルサールカだなんてひどいです……」
「え……そうか?」
私は釣り竿を氷上の竿掛けに掛け、アクリナの機嫌を取ろうとする。
遠くでスケートをしている子供たちがくるくる回っている。まったく上手く回るものだ。

アクリナが涙ぐんでいる。
「もう……、あ……あの、おっしゃるとおり、あたしは若くありません。貴男様にお見せできるような体では……」
「そんなことを気にしているのか」
アクリナはたまに突然、妙なことを言いだす。何か脈絡なく辛いことを思い出すらしい。そして私の心中を勝手に忖度して、私が残酷なことを考えていると独り決めし、恐怖に襲われるのだ。
「だって、若くてきれいな方がたくさんいます……」
「若くてきれいな婦人はたくさんいるね。でもそれが私に何か関係あるのか?」
「貴男様ならいくらでも手折(たお)れますわ……」

私はアクリナのキノコの本を持つ手に、革手袋越しに手を重ねる。
「そういうことはもう飽きたと言わなかったかね。
キリーナ、だから、おまえが良いというのに何回繰り返させるんだ?
そんなにいつもいつも褒めさせたいのか」
「そ、そんなわけでは……」
私は上半身を横に向け、アクリナの体を外套の上から抱く。
「アクリーヌ、お前の体はまだ崩れていない……崩れてもそれはそれで良い……。
それに私はきれいなおまえを覚えているだろう。私の記憶力を舐めるな。
おまえは私が太って、腹が出て禿げたら見捨てるのか」
「まさか……」

アクリナは少し混乱しているようだった。
「でも、ルサールカなんてひどい……です」
「ちょっと待て。おまえはルサールカで何を思いつく?」
「歳を取った醜い……、毛むくじゃらの……人を溺れさせる女です」
「……なるほど。ああ、北部では確か醜女だと聞いたことがある。
こちらでは、霧深きドイツの美しい水妖ローレライの印象と混ざっているのだよ。緑の髪の、美しい女だ」
「美しい……ああ、領主様、申し訳ありません……」
「いえいえ。どういたしまして」

見張りにくるステパン・テレージンが生意気にもアクリナに恋心めいたものを抱いている。
ささやかな親切を繰り返す。……いつぞや紅茶の入れ方を知らなかったのが恥ずかしかったのか、せっせと紅茶を入れて差しあげる。
薪を割ってやる、薪を運んでやる、本に載っている、わからない言葉を教えてやる、キノコを採ってくる、家から花を盗ってきて飾る……うっとり見つめる……問い詰めたら毎日彼女を夢想していることを白状した。
恐らくあの年代のどうしようもない欲望やら情熱やらの出口を、たまたま身近にいた『高嶺の花』(二十も年上だろうと)に見いだしただけだと思うのだが。
ステパン・テレージンは『私の女』には決して手は出せない。出したら無傷では済まない。
それに、ステパンごとき小僧に扱える女ではない。どんなに難しいか、あいつには想像もつくまい!

私はアクリナのウシャンカを脱がせ、髪をいじる。温かいから良いだろう。丁寧にピンを外し、未婚の印の、一本の三つ編みをゆっくりとほどく。湖の岸は遠い。岸に誰かいるかも知れないが知ったことではない。
ほどき終えると、またウシャンカをかぶせる。
「エヴゲーニイ・パヴロヴィチ。貴男様は何か見たことがありますの? 精霊などまったく信じておられないのでしょうけれど……」
私はまた釣り竿を握る。アタリはまったく来ない。
「信じていないけれどね、信じている者たちを見たことはあるよ」

急に竿が重くなった。何かかかっているのに気づいた。竿を引き上げると、水草の塊だ。かなり大きく、生臭い。小さな蟹がしがみついていた。
「……食べられますかしら」
「何か食べられるものを釣ろう……」
「ここにはどんな魚がいるんですの」
「チョウザメ」
「え、本当でございますか」
「嘘だ。ナマズくらいはいるかな」
「もう、貴男様の嘘には慣れましたわ……」
「でも、少し騙されたね」

「そう、信じている者たちを見たという話だった。
フョークラを魔女だと信じている者たちがいて……、フョークラも面白がって魔女の振りをするんだ。パーヴェルが……父が甘やかして好き放題にさせるから……」
「フョークラが何をしたのですか」
「うん」
私はアクリナの外套の釦を外し、打ち合わせから右手を入れ、腹のくびれに手を掛けた。彼女の頭と首のあいだに、頭をもたれかける。
アクリナの唇にそっと唇を合わせる。
「こんなところで……」
「フョークラはオロネツ県の出身らしいよ。おまえのいたアルハンゲリスクの隣の県だ」
「ああ、それで……似ているのでしょうか」
「あちらの人から見たら、全然似て見えないのかもしれないね。
フョークラが領地に来たのは、あるとき、サンクト=ペテルブルクに出かけたパーヴェルが一目で気に入って買ってきたからだ。……で、悪い癖が出て、また二年後くらいに美しい女農奴を買った」
「……あ……貴男様はそんなことはなさいませんよね……」
「おまえを買ってしまったから、もう予算がない」
青空の下で、アクリナを見るのは珍しい。いつもは真っ白に見える肌が、暖まって赤みが差していた。藁色の髪は緑と言えなくもない。
「その女農奴はどうなったのです?」
「もちろんフョークラが追い出した」
「ああ……やっぱり。羨ましいですわ……」
「羨ましいのか」
「だって、あたしは『やきもち』を焼きますもの!」
私は外套の中に手を入れ、優しくアクリナの体を撫でる。外套の下はドレスだ。黒いヴェルヴェットで、胸元を黒兎の毛皮が飾っている。
私はアクリナを私の肩によりかからせた。
小鳥のツツツツという鳴き声がする。どこかでキクイタダキが鳴いている。

「その新しい女農奴は、若くて、黒海のそばの育ちで、泳ぎが得意だった。夜、パーヴェルと、この湖で泳いでいた。泳ぎながら交わって……フョークラは泳げなかったんじゃないかな」
「パーヴェル様は本当に罪深い方ですのね。でも何故、貴男様が知ってらっしゃるのですか」
「いや散歩していたら見えた……」
「嘘でしょう?」
私の肩に寄りかかりながら、アクリナが言う。私は返事の代わりにドレスの上から乳首をつねる。
まあ本当のところは、当時、十一か十二のころ、私はフョークラを追いかけ回していたからだ。……アクリナに紅茶をいれてあげよういれてあげようとするステパン・テレージンと大して変わらない。
「……そんなときに、子供が領内の川で溺れる事故があった。
すごく浅い川で溺死したんだ。妙な事故だったから、ルサールカの仕業だって。
……フョークラの仕業だろうね。
農奴のなかには、ルサールカを見たという者が現れた。緑の髪の女が、夜の湖や森でうろついていたって」

「……そのころ新しい女農奴は、髪を緑色に染められていた。恐らく眠くなる薬草を与えられていた。
それとも、髪を全部剃られて緑色の鬘かつらをかぶせられていたのかな?
それで夜の湖でルサールカみたいに泳がされていた。
実際には溺れかけていた。カフタンの帯の代わりに縄をつけて、大きな石が結びつけられていた」

「溺れかけている女を見て、農奴があいつはルサールカだと言い出して」
アクリナは私の外套の袖をぎゅっと握る。
「……怖い……この湖なのでしょう……?」
「まあね。私がいるから大丈夫だよ」
「それでどうなりましたの……?」

私は目を細め、少年時の夏の夜に見たこの湖を、今の光景と重ねようとした。月が美しかった。
「農奴たちは松明をかざして、ルサールカの、緑の髪の女農奴を探しに来たよ。もう溺れていたけれど……緑の髪を広げ、白い薄物一枚が貼りついた死骸は美しかったね。
翌日、ボートが一台なくなっていたそうだ。フョークラがボートで彼女を運んだのだろう」
「ああ……」
アクリナは十字を書いた。
「アクリナ、十字を書くときは三本の指で書きなさい。二本は間違っている」
アクリナは驚いていた。「でも、……母からこう教わりましたわ」
「総司教様が新しくお決めになったのだよ。三本の指で、ハリストス様を表すんだ」
「そうなのですの……?」
腑に落ちないように、私がやってみせた指の形を真似る。
「こう覚えなさい……一本は生神女マリヤ様、もう一本は聖ニコラ様。最後の一本は私だ。二本指だと、私を忘れたことになる」

私は辺りを見回す。スケートの子供たちは帰って行った。湖を取り囲む森は黒く、深閑としている。
人気がないのを見計らって、アクリナに接吻した。
舌で、上の歯と下の歯の間を抜け、頬の裏側の柔らかな粘膜に触れる。「こんなところで……誰かに見つかったら」
「パーヴェルはここで、そのルサールカの女ともフョークラとも交わっていた。接吻くらい……」
どうもパーヴェルの行動が、私の指針になっている。父が私にまともに話しかけたことなどほとんどなかったのだが。

私はアクリナの外套の下から、胸元に手を差し込む。
「だ、駄目です。……こんなところで……」
もう夕焼けがはじまった。延々と夕焼けが続いたあと、日が落ち、あっという間に寒くなるだろう。
「おまえの家まで二露里ほどか? ここでおまえを見たい……」
私はまた口づけし、頬や、瞼、首筋まで唇をつける。アクリナがとても弱いところ、首と頤のあいだにも唇を触れる。びくんと脈打つようにアクリナの体が揺れる。
「あ……お、ああ!」
「私のルサールカ……」
「領主様、駄目です……誰か見ていたら……噂が広まったら……」
「私の評判なんかもうボロボロだ」
「で、でも……あの方に……ご迷惑が」リザヴェタのことだ。
「おまえの……ほうが……」
私の息は荒い。何なのだろう? この興奮は。

毛皮外套に両手を潜り込ませ、アクリナの背の釦をいくつか外した。毛皮のついたドレスの胸元から、片方ずつ乱暴に、乳房を掴みだす。
「いや……。外ですわ……」
「うん」
「領主様、あの……」
私は外套に顔を埋め、アクリナの乳房を口に含む。まったく、生牡蠣のように白い。わずかに塩味がする。バターのように軟らかかった乳頭が、あっという間に硬く尖る。
魚スープ(ウハー)を作りますから、魚を釣り上げてくださいませ……」
アクリナはひどく困っている。
「私のルサールカ……アクリーヌシュカ……」
「こんな……怖いところで」
「夏になったら……夜中に水の中で交わってくれるかい」
「泳げませんわ」
「水の中に入るだけで良いのだから、泳ぎは必要ない」
私はなおもアクリナの乳房の、下の重みを支え、丸みをなぞる。革手袋を外し、てのひらで包む。やわらかに揺すり続けた。アクリナが小さく声を殺して呻く。
「う……あ……このあたりでおやめください……続きは戻ってから……」
「キリーナ、何度言ったらわかるのかね。おまえは私のもので……命じられたら、何でもしなければならない」
「……わかっております。エヴゲーニイ・パヴロヴィチ……でも、日も暮れてまいりますわ」
「陽が沈むにはまだ一時間もある……」

私は、自分の外套の前釦を開く。彼女の外套の中の、細い体を抱きしめた。「寒いか?」
「こうやっているのならば……寒くは」
アクリナは眉をひそめ、泣きそうだ。
「おまえの外套から……片手を抜いてごらん。まず右だ……私の外套でしっかり抱いているから」
「……はい……」
ごそごそ動き、アクリナが右腕を外套の厚い袖から抜く。
私はアクリナの背中の釦をさらに外す。黒いヴェルヴェットのドレスの、わずかに膨らんだ袖から、白い腕を引き抜いた。右腕を外套で覆う。
「あの……領主様、まさか」
「今度は左だよ」
「いやです……外でなんて……」
アクリナが泣きだした。私がドレスの釦を腰まですっかり外したことに気づいているのだろうか。
「誰かが通りかかるかも……知っている人も。ヒローシャが猟にくるかも」
「見えないように私の外套で覆っている。左腕も同じようにしなさい」
アクリナが右手で涙を拭う。「うっ、……は、はい……」
中腰になり、私の肩を押すようにして、私に掴まっている。
ウシャンカからはみ出た藁色の柔らかな髪が私の頬をこすった。

アクリナの左腕を外套の袖から引き抜き、乳房を抑えていた飾り帯を解く。ドレスがさっと滑り落ちた。……下は素裸だ。
「また下着を着けていないね。脱がせてくれと言っているようなものだ」
「だって、ドロワーズは、がさがさして、邪魔なんですもの……」
「今度は絹の柔らかいのを作らせる」
アクリナは泣いている。私は座った状態で、中腰のアクリナを見上げる。外套が細く開き、白い裸体が見える。
毛皮外套の中にも夕陽がしのびこみ、乳房の先端がオレンジ色に染まっていた。下腹は濃い影になっている。
「なんてきれいなんだろう」
釣った魚を入れる予定であったバケツに、アクリナのドレスを入れる。アクリナを私の膝の上に乗せ、外套に包まれたアクリナの肌に触れる……こうするとほんとうに殻に入った牡蠣のようだ……。

私は右腕を伸ばし、アクリナの脇の下から背後に手を回す。背骨に沿って、いちいち跡をつけるように、少しずつ私のてのひらで押し揉み、腰へと下っていく。
「い……いやです、領主様……」
目は涙であふれている。「きっと、ポポフ家の誰かが見ていますわ……」
「そうしたら、また私が鞭打たれるよ」
私は右手をアクリナの外套の前合わせの隙間にさしこみ、彼女の裂け目を開く。
夕陽が当たり、オレンジ色だか石榴色だかわからなくなった襞は、まぶしすぎてかえってよく見えない。

私はますます大きく広げ、裂け目をのぞきこんだ。ああ、やはりたいそう濡れている。私は人差し指をそっと奥に入れる。
「い、いやです。い、いくら貴男様でも……こんなの……」
「私は今のおまえの姿が可愛くて可愛くて……」
アクリナは私の上に斜めに倒れて、抱きついて泣き続ける。「ひどいですわ、ひどいです。あ、あたしはフョークラみたいにふしだらではありません……」
「ふしだらでなくても、淫らなことはできる。私が命じたとおりにやれば良い」
私は丸太の椅子に斜めに腰掛けたまま、ズボンの釦をはずす。硬くなった、時々動く器官を引っ張り出す。
「え……」
「アクリーヌ、脚を開いて、この上に座りなさい」

アクリナは怖々と私の肩を掴み、私の上に座ろうとする。「い……痛い」
「ゆっくり座れば良いのだよ」
私はアクリナの裂け目に手を当て、さらに開かせる。石榴の実の色の裂け目に夕陽が当たり、透明な粘液がオレンジ色になり、裂け目自体の色合いはバーントシェンナーの顔料に光を当てたみたいになった。
私のものがなんとか入った。
少しの間、アクリナは痛みに耐えている。私にしっかり抱きついてきた。
「フョークラが、パーヴェル様にこうやっていたのですか?」
「さあ。まあ、やりそうだね」
痛みが治まってきたようなので、ゆっくりと動かした。
「あ……あああ、う……」

「貴男様は……」悲しそうに、アクリナは私を見下ろす。「あたしはフョークラの代わりなのですか」
「え? 最初はフョークラに似ていると思ったけれど、後は……」
「……オルガ様がナディジェダ様、オルガ様では上手くいかなかったから……あの、リザヴェタ奥様……。そうやって、少しずつ形を変えて、昔を取り戻そうと。お父様のようになろうとしているのかと……」
下から顔を眺めあげ、悲しそうな様子を見て、接吻した。深く。
「賢いアクリーヌシュカ。よく気がついたね。多分そうなのだろうね」

アクリナは杭に差されているみたいだった。私は外套の中で彼女の尻に手を回す。私が掴んだところがすべて赤くなる。
「まだ痛いか?」
「いいえ。今は。最初だけです……」
アクリナが声を上げた。
「あ、……あう!」
この前初めて、膣の中で恍惚を得させることができた。またできないものか。
私はアクリナの奥の前側にある、粒のあるところに当てるように、私のものを動かす。口をアクリナの乳房につける。
私は締めつけられている。アクリナが泣き声をあげながら、私の肩に顔を埋めている。
すぐ耳元でアクリナが荒い息をつき、うめき声を上げながら泣いている音が、何か膜を隔てたように響く。まったく堪らないではないか……。
「フョークラよりおまえのほうがずっと……」
「はい……」
「フョークラはパーヴェルのもので……アクリナは私のものだから」
「はい、領主様」締め付けが急に激しくなり、私にまで痙攣が伝わる。「……あ、あ、領主様、エヴゲーニイ・パヴロヴィチ……、ずっとあたしを……ずっと……」
「うん……アクリナ。アクリーヌシュカ」
私は痙攣するアクリナにさらに締めつけられ、もう耐えられなかった。慌てて抜き、射精した。

釣り竿に魚がかかっている。なかなか大きそうだった。
アクリナはぐったりしている。私は彼女の外套の釦を留める。
少し泳がせてから一気に竿を上げる。一ピアド【*17.78cm】ほどの長さの、ぬるぬるしたヤツメウナギだった。
「おまえの好きなヤツメウナギだよ」
「え……すごいですわ」
「このあたりだとヨーロッパカワヤツメかな」
顎がなく、口元は円形で石榴の粒が詰まっているかのようである。蛭にも似ていた。
バケツに湖水とともに入れる。

もう日が落ちそうだった。
アクリナは恍惚に疲れて動けないようだ。
私はアクリナの首に、脱ぎ捨てた黒いドレスを首に巻きつけた。外套をしっかり着せてから、背負う。
バケツにはカワヤツメが入っている。ウハーになるのか、前菜ザクースキふうにマリネにしてくれるのか。楽しみだ。

「領主様、すいません……あの、もう体がしびれて……」
「おまえは軽いよ」
私は凍った湖を出る。
森の道に入ると真っ暗だった。私はいったんアクリナを下ろし、角灯に火をつける。私は再びアクリナを背負い、角灯を持たせる。
ルサールカは水の精だがずっと水の中にいるわけではない。春から夏にかけては長い緑の髪を揺らし、森や野原で踊っているそうだ。

私はアクリナに言う。
「リザヴェタが身ごもった。三ヶ月になる。屋敷の者たちにも知らせたよ」
背中から疲れ切った、か細い声がする。
「そうですの……。おめでとうございます」
「泣かないのだね」
「泣いても仕方ありませんもの。……泣けとおっしゃるのですか?」
「いや……」
「喜んで祝福申しあげるのは難しゅうございますけれど……」
アクリナが私の背中にしがみつく。長い柔らかい髪が私の外套に垂れる。
私はアクリナに言う。
「おまえは子を産まないからずっと若い。ずっと、ルサールカのように若くて美しいままだ」


アイキャッチ画像
“Landscape with a Rainbow”
Painted by
Alexei Savrasov (1830–1897) [PublicDomain]